公会計制度見直しの動向

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オーストラリアがセクター・ニュートラルの勘違いに気付いた模様

 「会計・監査ジャーナル」2007/3に載っている第17回世界会計士会議イスタンブール大会リポートで、オーストラリア政府のCFOの話として次が紹介されている。
 オーストラリアは、これまで公会計改革のアプローチとして「セクター・ニュートラル」を採用し、公的セクター特有の事象を除いては、原則として公的セクター・民間セクター(営利企業)に同一の会計基準を適用してきた。しかし、公的セクターの性質が民間セクターと根本的に異なること、財務情報の利用者が民間セクターとは異なることから、現在、セクター・ニュートラルのアプローチを再検討するプロジェクトが進められている。


 当然といえば当然の話だ。財産保全と損益期間計算のための会計統制と、公共財提供費用の支弁と財源確保のための会計統制を同一に取り扱えると考える方がおかしい。
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新潟県が会計制度改革会議を4月に設置

 3月20日付け日本経済新聞地方経済面(22)の「会計制度、県が改革に着手、透明・効率、10年メド移行」によると、新潟県も、公会計の透明性と効率を高めるための改革に着手するようだ。県が19日に発表したもので、企業会計の手法を導入して負債や資産の額を把握したり、会計手続きを効率化したりするという。4月に、部局横断で新会計制度を議論する場として、副知事をトップとする「会計制度改革会議」を設置し、方針を集中議論して今年8月までに新制度の骨格を固め、会計にかかわる情報システムの開発などに着手するという。22年3月までに新会計システムに完全移行することを目途としているようだ。記事によると、「現在の会計制度は、現金の出入りだけで収支を把握する「現金主義」をとっている。どれだけの負債や資産があるかつかみづらく、企業会計の手法の導入が求められていた。」だと。経費精算や予算編成など会計事務の効率化も同時に進めるということのようで、これは結構なこと。泉田裕彦知事は「出資法人や外郭団体なども含め(会計制度が原因で)問題がわからず先送りになっていることがあまりに多い」と指摘し、抜本改革の必要性を強調したというが、問題を分かっていなかったことを会計制度の所為にされてもなぁ……。
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単式簿記・現金主義をなめた議論

 3月15日付け日本経済新聞朝刊33面の「特集――自治体経営シンポジウム、シンポ第1部を聞いて、外部の目でメス入れよ」〔産業地域研究所研究員 前島雅彦〕は、シンポジウムにおける宮脇教授の言葉として「行政の認識しない非効率」という表現を引用し、それをあぶり出すには住民など外部からの指摘が必要だが、現在の公会計制度では難しいだろうと説く。記事によると、「単式簿記・現金主義の考えに基づく公会計制度は、現金収支の記録が基本だ。自治体は台帳で資産、負債の管理をしているが予算、決算書との結び付きは弱い。しかも台帳の記載内容は自治体によってまちまちで資産価格の記録がないところが大半だ。これでは資産の効率運用は難しく、減価償却費を含めた事業コストも計算できない。」という。まず、「決算書」として収入支出決算書しかイメージせずに資産・負債との関連が薄いと説くのはおかしな話だし、さらに、台帳の記載内容がまちまちなことは資産の効率運用とは関係のない話だし、資産価格の記録がない、というのは会計制度以前の話だろう。また、「減価償却費を含めた事業コスト」の算出は現行制度下でも十分に可能であり、現に行っている自治体もある。
 「負債の膨張や財源の先細りに直面している自治体にとって、経営効率化は喫緊の課題だ。費用対効果を計って事業を選別したり、遊休資産の売却で負債を圧縮するなど「認識しない非効率」にメスを入れる必要がある。しかし、現金収支の帳尻合わせに終始する現制度では対応できない。」と記事は説くが、「現金収支の帳尻合わせに終始」している訳ではないことは、各自治体が曲がりなりにも貸借対照表もどきを作成していることからも明らかだ。
 「民間企業は資本市場と向き合い、その声に耳を傾けながら経営改革を進めてきた。自治体も同じはず。経営実態を分かりやすく公開し外部の目にさらせば気付かなかった改善点が浮かび上がる。自治体経営を変えるには会計制度の抜本改革が不可欠だ。」と記事は締め括っているが、別に、会計制度を変えずとも改善点は浮かび上がる。

 公会計における費用回収型事業と準公共財(直接受益者特定可能)提供事業と純粋公共財提供事業とは整理して議論する必要があるのだが……
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単式簿記でも適切な指標は作成可能

 3月10日付けの日経朝刊5面に掲載されている「「隠れ債務」対象に、「黒字」自治体も危機感、行政サービス見直しも」によると、閣議決定された地方財政健全化法案には、財政健全化を判断する新たな指標に、国民健康保険の赤字や第三セクターの負債といった"隠れ債務"も含まれており、総務省がこれから詰める財政悪化の具体的な判定基準しだいでは、これまで健全とみられていた市町村が早期是正の対象になる可能性があるとしている。記事によると、財政状況を判断する4指標のうち、新たに設けるのは「連結実質赤字比率」と「将来負担比率」で、前者は財政規模に対する赤字の割合で、公営ギャンブルや介護保険事業などの赤字も含み、後者は財政規模に対する将来の債務負担の大きさを示し、公社や第三セクターの負債も対象という。

 当然のことながら、これらは、いずれも、複式簿記を前提としていないし、複式簿記化したからといって、これより有能な指標を算出できるわけでもない(退職給与引当金相当額の指標化などは全体を複式簿記化するのと無関係に算出可能だ)。
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投資家に公会計制度見直しに関心

 3月8日付けの日経金融新聞3面の「自治体財務書類、信頼なお遠く、東京都が1200億円過大計上」〔菅原誠吾〕は、東京都の包括外部監査を行った公認会計士が報告書で指摘した、産業労働局で中小企業向け制度融資貸付金が17年度末で1200億円超過大に計上されていたことが、東京都が企業会計の考え方を取り入れて毎年作成し、17年度版を昨年12月に公表した「機能するバランスシート」に影響しているかについて、「現金の出入りに基づいた普通会計の数字を組み替えて作成しており、今回の帳簿ミスの影響はない」(財務局主計部財政課)と伝えている。この「機能するバランスシート」は法定決算書類を審査する監査委員によるチェックの対象外で、外部の会計士も監査しておらず、数字の信頼性を担保する仕組みが整っていないとも記事は伝えている。記事は、都が18年度から「複式簿記・発生主義」の考え方を本格的に取り入れた財務会計システムをスタートさせており、職員が現金を支出する際に、システムで簡単な入力作業を追加することで、ほぼ自動的に複式簿記の仕訳ができ、今年夏ごろには新システムによる18年度の財務書類が完成する見込みだが、外部チェックの仕組み整備は今後の課題となっていると紹介している。さらに、記事は、総務省が18年7月に実務研究会を発足させて、地方自治体向けの具体的な公会計基準作りに着手していること、企業会計の考え方を取り入れた財務書類はまだ法定決算として位置づけられていないことから、だれが監査するのか、また具体的な監査手法などの議論は進んでいないのが実情であることを伝え、昨年以降、公募地方債の発行条件が自治体間で差がつき始めており、投資家の間で企業会計に準じた財務書類に対する関心が高まっており、自治体が投資家や住民に対する説明責任を果たすためにも、数字の正確さを担保する監査制度導入に向けたルールの整備が不可欠と論じている。
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自治体の2方式は桜内方式と森田方式

 3月1日付け日経夕刊9面の「新潟大学桜内文城氏、トーマツ森田祐司氏――自治体会計、改革をリード(波頭旗頭)」〔証券部 磯道真〕によると、総務省の新地方公会計制度研究会が作成した公会計基準の二つのモデルは、会計改革を実務面でリードしてきており、同研究会及び同実務研究会のメンバーでもある新潟大学経済学部の桜内文城助教授とトーマツの森田祐司代表社員の二人がそれぞれ提唱したもので、「桜内方式」と「森田方式」と呼ばれているそうな。二つの方式は、記事によると、企業会計と同じ発生主義・複式簿記で連結ベースのバランスシートや行政コスト計算書を作成する点は共通で、違いは森田方式が小さな市町村でもすぐに作れるよう既存の指標を最大限活用するのに対し、桜内方式はより企業会計に近く、予算編成の意思決定メカニズムを変えることまで念頭に置いていることだという。桜内氏はもともと財務官僚で、「政府の意思決定がなぜ国民の望むものと乖離するのか」という思いからこの分野に足を踏み入れており、「行政側に人のカネを預かっているという意識が薄かった」とみて、公会計改革の狙いを、住民にも事業の財源や資産の状況、将来負担がわかるようにすることに主眼を置いているが、一方の森田氏は、もともとは米国会計基準やシステム監査の専門家であり、ニュージーランドの行政改革の本を翻訳したのを機に公会計の世界へ入り、大分県臼杵市の財務諸表の作成に協力して第一人者になった人物で、「企業会計をうまく使えば受益と負担の関係を整理できる」とし、また企業は通常、財務会計だけで内部向けの管理会計は公表しないが、「官は意思決定も表に出すべきだ」と主張していると記事は紹介している。二人のモデルは総務省の研究会で擦り合わせが進むが、最終的には両方とも採用され、自治体がどちらかを選べる可能性もあると記事は見ている。記事は「自治体の負担軽減が今後のカギとなりそうだ」と締め括っているが、問題は両方式が翻訳できるものかどうかではないのかな。
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日経が自治体の会計制度見直しについて不勉強な記事

 2月27日付けの日経朝刊地方面に「自治体会計ABC(上)なぜ注目――財政悪化広がり改革機運」が載り、続いて28日付けに「自治体会計ABC(中)何が問題――赤字隠し見えにくく」が、3月1日付けに「自治体会計ABC(下)どう変える――見通し含めた負担把握」が載った。
 これらは、「「公会計制度」の課題を整理する」もので、現行の制度は予算、決算とも単年度での現金の出入りのみを記録する仕組みになっており、複数年にまたがるプロジェクトの全体収支などがわからないほか、自治体が保有する資産や負債、コストなどの開示も求められていないとする。英国やオーストラリアなどでは1980年代後半から90年代にかけて、予算や決算に民間の会計手法が採用されたと紹介し、日本では、地方財政の悪化や自治体へのムダ遣い批判などを背景に、90年代後半になってから改革への機運が高まったとしている。16年度決算で見ると、普通会計ベースの貸借対照表(バランスシート)を作成しているのは全自治体の半数、公社や第三セクターの財政状況なども含めた連結ベースでの情報開示は1割に満たず、これからの課題としている。
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