公会計制度見直しの動向

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日経が自治体の会計制度見直しについて不勉強な記事

 2月27日付けの日経朝刊地方面に「自治体会計ABC(上)なぜ注目――財政悪化広がり改革機運」が載り、続いて28日付けに「自治体会計ABC(中)何が問題――赤字隠し見えにくく」が、3月1日付けに「自治体会計ABC(下)どう変える――見通し含めた負担把握」が載った。
 これらは、「「公会計制度」の課題を整理する」もので、現行の制度は予算、決算とも単年度での現金の出入りのみを記録する仕組みになっており、複数年にまたがるプロジェクトの全体収支などがわからないほか、自治体が保有する資産や負債、コストなどの開示も求められていないとする。英国やオーストラリアなどでは1980年代後半から90年代にかけて、予算や決算に民間の会計手法が採用されたと紹介し、日本では、地方財政の悪化や自治体へのムダ遣い批判などを背景に、90年代後半になってから改革への機運が高まったとしている。16年度決算で見ると、普通会計ベースの貸借対照表(バランスシート)を作成しているのは全自治体の半数、公社や第三セクターの財政状況なども含めた連結ベースでの情報開示は1割に満たず、これからの課題としている。
 二日目の記事では、自治体会計制度が抱える問題点は大きなものだけで二つあり、一つは資産や負債を累計で把握するのが難しいこと、もう一つは、減価償却費や引当金などを把握できない点で、いずれも単年度の現金収支を記録するだけという現在の制度の課題を象徴しているとしているが、「資産や負債を累計で把握する」が何を意味しているかは不明であり、また、減価償却や引当金はもともと、そのときどきに所要額を集めるという公会計の目的を理解しているのか不明。記事は、「前者は北海道夕張市の財政破綻に表れているとして、夕張市が一時借入金の悪用のほか、複数の会計間で資金をやりとりして赤字を隠しており、そうした資金は決算書の「諸収入」という項目に表れ、異常な高額となったていたが、膨らみ続ける負債額を決算書から住民がチェックするのは極めて困難としている。しかし、「異常な高額」は分かったはずであり、それで十分なはず。記事は、「後者の代表例は団塊世代の大量退職」であるとし、民間企業では将来の退職金支払いを見込んで引当金を積むのが当たり前だが、自治体では引当金という概念がなく、事前に資金を蓄える必要はないと説明する。記事はここでもごまかしをする。「事前に資金を蓄える必要はない」のは、民間企業も同様であり、「多くの自治体が退職金支払いで退職手当債を発行するのはこのため」としているが、民間企業も一時の退職金のために融資を受けるのは当然のこと。何もそのために「資金を蓄えている」わけではなく、期間損益を公正に算出するための引き当てであることを記事は理解していない。記事は、総務省が12年に貸借対照表の統一基準を示し、決算統計の数値を入力するだけで貸借対照表を作成できるソフトウエアも開発したが、資産価値が実態を反映していないといった問題点が多いのが実情としているが、そもそも解散や譲渡を予定していない自治体の資産価値を現在価値に置きなおして表示しておく必要は見当たらない。処分する必要があるものについて必要の都度、時価評価すればいいだけの話だ。
 三日目の記事は、総務省が昨年4月に公会計制度の改革に向け有識者らによる研究会を設置したことについてである。研究会の報告書では新たな統一基準で、貸借対照表(バランスシート)や行政コスト計算書(損益計算書)、キャッシュフローを把握する資金収支計算書などを作成するよう求めているとしているが、研究会報告書では二つの基準を示しており、それを、統一基準で作成するよう求めた、と表現していいものか疑問だ。記事は、現在、新基準による財務諸表を静岡県浜松市と岡山県倉敷市で試作中で、問題点を洗い出した上で、3年後には人口3万人以上の全自治体に作成を義務付けるとしている。そして、「一方」と続けて、自治体の財務実態を住民に分かりやすく示すための制度作りとして、総務省が今国会に提出する新しい再生法制では、財政規模に対する公営企業・第三セクターを含めた負債の重さを示す指標(将来負担比率)や、国民健康保険なども加えた全会計ベースでの赤字額の割合を示す指標(連結実質赤字比率)を新たに公表し、一定水準以上悪化した場合、20年度決算から健全化計画の策定を義務付けると紹介しているが、これらはまさに「一方」であり、従前の制度でも算定可能な数値を実務に用いることを意味しているのに、記事は、あたかも、これが公会計の表示方法の変更の一環であるかのように、「今後の見通しも含めた財政実態を把握し、住民に説明する――。住民生活を守るためには当然の取り組みがようやく始まろうとしている」と締め括っている。
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〔2007.06.19.追記〕
「とおりすがり」さんからコメントがありました。おそらく本記事中の「民間企業も一時の退職金のために融資を受けるのは当然のこと。何もそのために「資金を蓄えている」わけではなく、期間損益を公正に算出するための引き当てである」の文章に対するものと思われますので、この文章を敷衍しておきます。
 退職給付債務を財務諸表で計上することが必要な所以は、期間利益の過大計上による過大な利益処分(ま、「適切な退職給付債務の計上」の場合は「利益過小計上による過大な非表示内部留保」も、ということになりますが)を防止することにあります。それは相当額が資産として留保されることを求めるものですが相当額の「資金を蓄えている」ことを求めているものではありません。したがって「利益処分」の概念がない公会計には必要のない話です。もちろん、将来の退職給付所要額の算定は複式簿記であろうとなかろうと必要なことですし、現に行われていることです(それを納税者に対してきちんと説明しているか、という問題はありますが)。
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民間には退職給付会計とそれに関連する諸制度がありますがご存知ですか?
とおりすがり | 2007/05/30 02:39 AM

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