日経サイトが掲出していた「
公共投資の判断に活用 会計に複式簿記、自治体に要請」〔編集委員 磯道真。有料会員限定〕は、地方自治体の会計が民間企業に少し近づきそうだ、と伝え、総務省は固定資産台帳の整備と民間企業並みの複式簿記を、自治体に要請する方針を固め、現在は複数のモデルが混在している会計基準の統一も視野に入れると報じている。基準が統一されれば自治体間の比較が容易になり、普及に弾みがつくというのが論者の言い分。5月の経済財政諮問会議では民間委員の1人が「発生主義・複式簿記に基づくものは10%以下だとうかがっているので、5年以内に完備するよう取り組みをお願いする」と地方財政の「見える化」を訴えたといい、1カ月後、政府は「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に「企業会計原則を前提とした地方公会計の整備を促進する」との文言を盛り込み、閣議決定したとの由。これを踏まえ、
総務省の研究会は7月下旬の次回会合で中間とりまとめを議論するという。価格情報の入った固定資産台帳の整備や、現金と実物資産の増減をセットで記す複式簿記の導入を自治体に求めることでは既に一致しており、あとは会計基準の統一や、固定資産を取得原価で評価するのか時価で評価するのかといった問題が残っているとのこと。
国の資産・債務改革を受けて総務省は18年に自治体に財務書類の作成を要請しており、19年度決算から連結貸借対照表などの整備が進んでいて、今年3月末時点では72%の自治体が作成済みだが、その8割強は収入と支出を記した決算統計の組み替えで作る簡易版であり、多くの自治体がいまだ資産台帳を持たず、資産がどれだけあるのか把握していないと伝えているが、語弊がある表現だ。道路台帳だって、橋梁台帳だってある。記事は、「しかも総務省のモデルは、税収を企業の売り上げに当たる「収入」に含めず「資本」として扱う。」と語り、あたかも論外のように語って、その理由を語らない。
「企業会計とは大きく異なるため、財務書類を公表しても「住民からの問い合わせや反響はほとんどない」(九州の市)のが実態だった。」と説くが、そもそも公会計を民間企業の方法で表示することに意味が無いからと理解すべきではないのか。記事は、「利益を追求しない自治体の会計を、民間企業に合わせることに抵抗感を持つ学者や自治体職員は依然多い。」としているが、利益追求かどうかが問題なのではなく、「交換」経済の中で一物二価(在庫価格と販売価格)を処理するのに適した複式簿記は、税金や補助金など非交換的な経済が多くを占めていて、かつ、一物二価がほとんどない公会計には無意味だ、ということなんだが。
記事は、「それでも老朽化した資産の更新時期を見極めるには、減価償却など発生主義の考え方が欠かせない。」と説くが、減価償却や減損会計で更新時期など見極められるはずもない。記事は「先進自治体では活用も進みはじめた。」として、「例えば東京都。神津島の漁港に流入する土砂を取り除くため、毎年8000万円ほど使っていた。だが、16億円かけて防砂堤を設置すれば年間の実質的なコストは3700万円で済むことが判明。10年度に事業化に踏み切った。千葉県習志野市などは、年ごとの資産更新に必要な額を見積もり、対策を練りはじめた。」と説いている。それを言うなら、
神奈川県の「見える化」は複式簿記を導入することなく見積もっていることも紹介すべきだろう。
記事は、「住民の関心が乏しいのは、基準がバラバラで他の自治体と比較できないことも大きい。自治体の合意を得やすいよう、総務省は行政コスト計算書と純資産変動計算書を一つにまとめる案など示した上、研究会の統一案を決めたい考えだ。」としているが、「バラバラ」というより、ほとんどが改訂モデルであり、他のモデルが例外的と言うべきだろう。
記事は「ただ研究会にオブザーバー参加する東京都は、国際公会計基準に近い独自方式にこだわり「妥協はしない」(会計管理局)との立場。同じ方式を採用する大阪府と併せ、総務省が彼らを納得させられるかどうかが基準統一のカギとなる。」と説くが、国会議員には言及していない。