公会計制度見直しの動向

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東京都方式の解説記事

 日経ITproに6月22日に掲出された「−地方分権時代の自治体経営 [1]公会計改革− 第3回 公会計改革への東京都の取り組み」は、東京都の公会計システムを解説している。同システムは、元々は三セクなど企業会計の問題点を浮かび上がられるために導入した企業会計システムを電子情報処理組織を使うことを前提にトップダウン的に公共財会計にも広げたもの。電子情報処理組織を使うことによって、議会対応としての准現金主義的処理と疑似企業会計的処理を同時的に行うことを可能とし、それにより、手間暇を最小限にしていることが最大の特徴だが、それによりどのような効果が上がっているかは未知数。

公式サイト:東京都の新たな公会計制度
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公会計改革の目的は行財政改革のツール?

 ITProサイトに6月1日に掲出されている「地方分権時代の自治体経営 [1]公会計改革 第2回 公会計改革の必要性とこれまでの取り組み」〔鵜川 正樹=監査法人ナカチ 公認会計士〕は、現在の官庁会計では、地方自治体の財務業績を民間企業レベルで把握することは困難であると説き、いわゆる公会計改革を解説している。記事は、多くの自治体は、「総務省方式」のモデルにより官庁会計を組み替えて財務書類を作成しているが、現状では、そのルール(会計基準)が複数存在しているほか、財産台帳が未整備であるために財務書類の信頼性や比較可能性に課題があるとしている。記事はまず、政府・自治体会計への複式簿記・発生主義会計の導入は、多くの先進国では広くいきわたっているが、日本国内では、単式簿記・現金主義会計を義務付けた会計法や地方自治法に基づく現行法制度などが支障となり、いまだ本格導入への道のりは遠い状況にあるとし、(1) 英国、オーストラリア、ニュージーランドなどでは、資源管理の効率性を目的として、予算、決算および財務報告に発生主義会計を導入し、財政規律、業績評価、マネジメント改革のツールとして活用しており、(2) 米国では、議会による民主的な統制を重視して、予算は現金主義のままで、決算と財務報告に発生主義会計を導入しており、(3) 欧州大陸では、フランスが国際公会計基準を導入して、予算制度改革、公会計制度改革、業績評価による行政管理改革を一体的に進めている、と伝えている〔その効果について否定的な見解もあるわけだが。〕。そして、日本国内の地方自治体では、2000年度(平成12年度)に総務省が「総務省方式」のバランスシートの作成マニュアルを公表してから、多くの自治体が決算統計をベースにした貸借対照表と行政コスト計算書(企業会計の損益計算書に相当)の2表を作成するようになったとし、総務省は、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進」のため、貸借対照表などの財務書類の整備に関して情報の提供と助言を行っていて、地方公共団体に対しては、2009年度(平成21年度)中に「新地方公会計モデル(基準モデル及び総務省方式改訂モデル)を用いた連結財務書類(平成20年度版財務書類)の作成を要請していると伝えている。そして、総務省の新地方公会計モデル(基準モデルおよび改訂モデル)の特徴は、将来的には複式簿記の導入を目指しているが、当面は、決算統計という既存のデータに基づいて容易に財務諸表を作成できることであり、主な目的は、無駄な資産を売却して債務を減らす「資産・債務の改革」であり、ストック情報とコスト情報について自治体間で比較できるようにすることであるとしているが、記事は、基準モデルと改訂モデルの際は言及していない。続いて、記事は、総務省の新地方公会計モデルは、多くの自治体に浸透してきており、ストック情報やコスト情報の必要性が認識されてきているが、この財務諸表は決算統計を組み替えたものであり、固定資産台帳の整備は進んでいない自治体が少なくないため、財務諸表の信頼性や比較可能性には課題があり、財務諸表の活用は十分とは言えない面があるとしており、基準モデルに取り組んでいる努力を評価していない。記事は、財団法人日本生産性本部が実施した「地方自治体の新公会計制度の導入状況及び財政状況に関するアンケート調査」(2009年12月)(PDF)がポイントとしている次の部分を引用した上で、「地方自治体の公会計基準の統一と固定資産の整備が、喫緊の課題であると言える。」と説いている。
1.財務書類の作成モデルが複数存在し、統一されていないため、他団体との比較が難しい(P3)
現在、「総務省方式(10.5%)」「基準モデル(8.3%)」「総務省方式改訂モデル(73.3%)」「独自方式(1.0%)」と複数の財務書類作成モデルが存在している。どのモデルを選択するかについては各自治体の判断によるため、各自治体が公表する財務書類を比較することは難しい状況となっている。
2.6割以上の団体で固定資産台帳が電子化されておらず、約7割の団体で有形固定資産の取得時の金額の情報がない。そのため、資産の正確  な把握ができていない状況である(P13)
加えて、固定資産台帳の整備時期については半数以上が「未定」となっている。現状では半数以上の団体が固定資産台帳を財務書類に使用できる目途さえ立っていない。このように、多くの団体では財務書類を資産債務改革に役立てるのが難しい状況である。資産債務改革という目的から考えれば、まずは固定資産台帳の整備を急ぐ必要がある。
3.有形固定資産の評価方法は、約8割の団体が過去の決算額の積み上げであるため、財務書類の有形固定資産額は実態とは異なっている(P9)
過去の決算額の積み上げに使用するデータ(決算統計)は、昭和44年度以降に作成されており、取得時の有形固定資産の情報しか把握する事ができない。昭和43年度以前の情報、昭和44年度以降の除売却資産や譲渡で取得した資産については把握する事ができない。現状、約8割の団体が決算統計データを使用している。

 そして、「地方公共団体の財政健全化に関する法律」により、すべての自治体が「健全化判断比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)」と、公営企業会計の「資金不足比率」を公表していることについて、多くの自治体は、こうした健全化判断比率や資金不足比率の基準値を下回ってはいる、とした上で、「将来的に少子高齢化社会を迎えて膨らんでいく財政需要を賄うことができるのかどうか、財政の持続可能性を評価するための情報が必要である」としているが、公会計の整備とは無縁の話であろう。課税水準の選択とそれぞれの課税水準における納税額の予測の話であって、現在も行われていることである。記事は、「また、住民への行政サービスが効率的・効果的に提供されているのかについて、検証できるような情報も欠かせない。財政状況の良しあしやサービスの効率性を測定するモノサシとして、公会計制度の整備は不可欠である。」とも説くが、「検証できるような情報」が公会計制度の整備から生まれるはずもないと思うのだが。記事は、「今後の公債発行では海外投資家の目も意識」する必要があり、「現在、公債は国内の預貯金などで消化されているが、将来的には国内で消化できなくなる可能性がある。その際には、海外投資家や国内機関投資家(年金、保険会社など)、財政・会計分析の専門家から見て、理解できるような財務報告が必要になる。そのためには、国際的な公会計基準に準拠した財務報告が欠かせない。」と説くが、確かに公会計の素人に対しては、企業会計的な財政状況の説明が有効であることは間違いないだろう。ただ、記事が説く「現行の官庁会計には「4つの欠如」」は合点がいかない。「(1)単式簿記による「ストック(Stock)情報」の欠如」と言うが、ストック情報が歳入歳出決算とは別立てになっているだけで「欠如」しているわけではないし、欠如している部分があっても、それは単式簿記のためではない。「(2)現金主義による「コスト(Cost)情報」の欠如」と語っているが、複式簿記が「コスト」情報を示し得るのは、一物二価を処理するための体系であるから、ということを理解していないことから来る錯覚である。公会計にコスト情報を求めるならば、ABC分析をすればいいだけの話だ。「(3)住民への決算要領の公表について、一定のルールがないことによる「アカウンタビリティ(Accountability)」の欠如」としているが、「地方公共団体の財政健全化に関する法律」も「一定のルール」作りに他ならないはず。「(4)予算(Plan)と執行(Do)が重視され、検証・評価(Check)、見直し(Action)が十分に実施されていないことによる「マネジメント(Management)」の欠如」とあるが、これは官庁会計の問題ではなく、むしろ、自治体のガバナビリティの問題であり、これを改善すべく、近年の地方自治体における事業評価や事業仕分けの努力があるとみるべきだろう。そして、記事は、「つまり、新しい公会計制度は、これら4項目が欠如した現行の公会計制度を、補完・改善するものでなければならない。そのためには、以下のような対策が必要である。」として、
(1)ストック情報の欠如への対策として、貸借対照表を作成する。また、全体の財政状況をつかむために、公営企業や外郭団体などを結びつけた「連結貸借対照表」を作成する。

(2)コスト情報の欠如への対策として、行政活動の経済性や効率性を判断する重要な情報となる「行政コスト計算書」を作成する。

(3)アカウンタビリティ(説明責任)の欠如への対策として、広報、インターネットなどにより住民に情報を公開する。また、アニュアルレポート(年次財務報告書)の作成を行う。

(4)マネジメントの欠如への対策として、「政策形成(Plan)−執行(Do)−検証・評価(Check)−見直し(Action)」のマネジメントサイクルを確立する。多くの自治体では行政評価が試みられているが、サービス提供のフルコストを把握して、予算編成や事業見直しにまで活用する必要がある。

と説く。そして、記事は、「こうした官庁会計の問題点を根本的に解決するために、東京都は2006年度(平成18年度)から、「複式簿記・発生主義会計」へ本格的に移行した。」と紹介し、「地方自治体の公会計改革は、「複式簿記・発生主義」の導入が目的なのではなく、公会計改革を行財政改革のツールとして、真に実効性あるものにしていくことを目指すものでなければならない。」と締め括っている。
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