公会計制度見直しの動向

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東京都が複式簿記の会計基準を策定したらしい

 8月29日付け日本経済新聞夕刊の「都、民間並み財務諸表――日々の収支反映、独自会計基準を策定」によると、東京都は、民間企業並みの財務諸表を作成するための独自の会計基準を策定したとのこと。国内の行政機関の会計制度で初めて、複式簿記で発生主義による基準を設けたということらしい。

 記事は、「これまでの行政機関の会計制度と比べ、道路など社会資本の資産価値や減価償却費などの財務データを正確に把握できる。」とするが、「正確に」というのは誤り。期間損益計算のための期間費用算出上必要とされる減価償却費を算出することにしたというだけであり、そもそも社会資本の期間費用を算出する必要など存在しない。むしろ、必要なのは適正維持費だろう。

 記事は続けて「都政の効率的な運営につなげる狙い」としているが、企業会計を採用している組織が、東京都交通局も含めて効率的な運営の役に立っているとでも言うのだろうか。

 記事によれば「都は18年度から新会計基準に基づき、日々の収入と支出を仕訳する。決算時には民間企業の損益計算書に相当する「行政コスト計算書」、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を作成。毎年9月の都議会で従来の決算資料と同時発表する。」ということのようだが、記事が「新会計基準の導入後は、これまで未公表だった職員の退職給付引当金や社会資本の減価償却費などが明らかになる。行政機関の「経営状態」を把握しやすくなり、民間企業と同様の経営分析が可能になる。」としているのは誤り。民間企業の経営分析のターゲットは売上高と利益であり、行政機関にとって、それはどちらも無縁のものだ。

 記事が「国内の自治体の多くは総務省のマニュアルに基づいて普通会計決算の数値を転用した財務諸表を作成しているが、都のように日々の収支を反映した会計制度は初めて。」というのは正しいだろう。その人的資源に、こういうコストの掛かる試みをするゆとりのある組織は東京都くらいだ。

東京都の公表文:「東京都会計基準」策定

 東京都の公表文では、さすがに「民間企業と同様な経営分析が可能となる」という馬鹿げた説明はない。優秀な人的資源を抱えているだけのことはある。
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