公会計と複式簿記

 現在、公会計の世界では、複式簿記を導入するのが流行になっており、日本でも導入する動きがあります。
 私は、公会計への複式簿記導入は、無意味なことであり、そのための努力と経費は無駄であると思っています。

 なぜか。
 それを説明するには、まず、複式簿記について語らねばなりません。

 よく、「複式簿記はコストを把握するためには不可欠の手段である。したがって、コスト意識のない役人に税金を無駄遣いさせないためには、まず、複式簿記をつけさせなければならない」という議論がありますが、この議論は、「複式簿記によってコストを把握できるのはなぜか」を理解していないという点で誤っています。

 では、「複式簿記によってコストを把握できるのはなぜか」

 それは、複式簿記が一物二価の状態を自動的に管理できるからです。

 例えば、在庫価格100円のある商品が120円で売れた場合、すなわち、売れた商品に100円と120円という二つの価格がある場合(一物二価の状態である場合)、複式簿記では、100円の在庫減と売上原価計上、120円の売掛金増と売上高計上を記帳することにより、120円の売上げに100円のコストが掛かっていたことが自動的に管理されます。これが、「複式簿記はコストを把握するためには不可欠の手段である」ことの実体です。

 これが理解できていれば、「コスト意識のない役人に税金を無駄遣いさせないためには、まず、複式簿記をつけさせなければならない」という議論が、いかに意味のないものであるか理解できるはずです。

 現在、財政制度等審議会 財政制度分科会 法制・公会計部会 公会計基本小委員会において、「公会計全体を通じた公会計基準のあり方」などが議論されています。さすがに、15年6月30日の報告書では「直ちに複式記帳を採用する必要性はないと考えられる」という結論が出されています(その理由付け及び前提となる導入論の趣旨は私は納得できませんが)が、今後、「政治主導の実績作りのために公会計へ複式簿記が導入される」というような馬鹿げたことが生じないとも限りません。学者の方々や財務省の方々には努力してほしいと思います。

(2003/8/2記)
© 2003 massim


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