公会計制度見直しの動向

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新地方公会計制度研究会の報告書ができたが……

 総務省は5月18日に「「新地方公会計制度研究会」報告書の公表」をプレスリリース。この研究会は4月5日に第1回を開き、5月8日までの1箇月ほどの間に計5回の会合を開いている。報告書はPDF80ページと大部だが、その大半は、財務書類の作成方法について二つのパターンを記したテクニカルなもので、これは事務方の想定外だったと思われるし、また、8自治体からヒアリングを行っているが、その結果が反映されたとは思えない(質疑は行われているが、質疑内容に基づく議論は見当たらない。次の検討の場で参考にされるのだと思いたい。)報告書になっているなど、とても奇妙なもの。今後、更に検討が行われるようだが、この報告書が今後の検討でどう位置付けられるのか、公会計複式簿記無益論者としても興味津々。
 ボタンの掛け違いは第1回会合から。そもそもプレスリリース「「新地方公会計制度研究会」の発足」でも、第1回会合で示された「「新地方公会計制度研究会」開催要綱(案)」でも、検討内容に「企業会計の手法を活用した財務書類の基準」ということは挙げられているが、その中身は

  • 連結ベースを含むフロー・ストックの財務書類の体系化

  • 資産・債務等の内容として開示すべき項目の検討 等


であり、基準自体を作成するつもりがあったとは思えない。また「新地方公会計制度研究会の進め方(案)」でも第1回で検討項目を議論し、第2回と第3回で自治体から検討項目に沿ってヒアリングし、第4回で検討項目ごとに論点を設定して議論し、第5回で「地方の公会計整備に向けた提言」をまとめるつもりだったようだが、そんな思惑とは関係なく第1回で1名の委員が自ら作成した「地方公共団体会計基準」を提示している。
 これについて議事録によれば次のような意見が交わされており、他の委員にとっても想定外だったことが窺われる。

  • 「基準」という扱いにとなるとすぐに公表することは難しいかもしれない。基準設定は議論されても、なかなか意見が一致しない。

  • 本研究会のアウトプットのイメージは、大枠の論点整理をしたものとしたい。


 第2回は自治体からのヒアリングで終わっているが、第3回では座長から論点整理案が示され、「地方公共団体会計基準」を示した委員はページ数を増やしたものを示し、他の委員から報告内容の提案があった。議事録から興味深い意見を拾っていくと

  • 会計基準についてはあまり細かいところまで入らず、参考資料として付けるべき。

  • まずは総務省方式の課題を整理し、段階的にあるべき方向にもっていくべき。

  • 専門家の間で意見が分かれる問題について、大丈夫かという議論はいただきたい。


 第4回会合では座長が「表紙案」を、会計基準な委員は「地方公共団体財務書類作成基準」を示し、報告内容の提案をした委員は報告書案を示し、残る委員は「「新地方公会計制度研究会」に対する提言」を示している。この提言は、「「基準」については、以下の理由により、研究会の最終報告書の本文又は資料として添付することは適切ではないのではないか。」として次のような理由を列挙している。

  • 本研究会はこの短期間で「基準」を示すことが本旨ではない。

  • 国の財務書類作成基準や、独立行政法人会計基準の設定の際には、多くの識見者による1 年以上の議論の醸成を以って設定したところである。「基準」も同様の期間とメンバーで作成されるべきものである。

  • 現状の総務省方式の問題点について、またそれを解決するための最も効率的、有効的な手法についての議論が必要である。

  • この「基準」に従って作成すれば、地方公共団体のニーズを満たせることを示す実例の検証が必要である。

  • 国の財務書類作成基準との統一性についての詳細な議論も必要である。

  • 上記のほか、以下の議論も必要である。

    • インフラ資産の認識・測定

    • 公正価値測定

    • 純資産の区分

    • 税収に対する考え方

    • 連結における少数株主持分、持分法の適用




 至極もっともな意見に見えるが、議事録によると次のような意見が交わされている。

  • 作成した者から希望を申し上げれば、書類作成基準は、なるべくそれ相当の取扱いをしてほしい

  • 第一部の中に、本報告書で提案するものは「基準」でなく「モデル」の位置付けであることを最初に明確に書いた方がいい。検討の経緯では、あまりにも漠然としている。


 そして、最終の第5回の会合になる。ここでも基準の取扱いが議論になっている。

  • 5回のみの審議であり、表紙と第一章は報告書でいいが、第二章以下は別添とすべきではないか。序の部分は序でなく本文でいいのでは。

  • 研究会の文章に「研究会」との文言をなぜわざわざ入れるのか、外してほしい。「地方公共団体財務書類作成基準モデル」又は「地方公共団体財務書類作成にかかる基準モデル」と提案したい。単なる参考資料にすべきというのは問題外である。

  • 研究会がモデルを提示し、各自治体でパイロットテストをやった上で、会計基準に到達するという整理が第一章の考え方だと思う。


 で、とにかく報告書は公表されている。問題は今後だ。「公正価値」という概念を導入している会計基準な委員による「基準モデル」のパイロットテストを引き受ける自治体が登場するのか、また、「本研究会からワーキングとしてできてくる」とされている次の検討の場の構成はどのようになるのか、興味津々。
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