公会計制度見直しの動向

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発生主義は民主的統制を弱体化させる

 2月15日の参議院決算委員会で、特別会計の現状と課題について参考人からの意見聴取が行われた。公会計に発生主義を導入すべきとする参考人に対して、小池正勝委員(自民)が、「公会計を現金主義から発生主義へ移行すると議会の財政統制は弱まるのではないか」という質問を行ったが、参考人からは、政府のすべての取引、意思決定を会計的に処理するのだから予算統制が弱まることはないという説明が行われた。
 企業会計においてもキャッシュフロー計算書を重視してきつつあるのは、まさに統制を強化するためであり、その文脈からも公会計に対して発生主義を導入することは公会計に対する民主的統制の弱体化に繋がるのではないか、という議論は重要な論点に思える。しかし、参考人の説明は説得力があるとは思えない。
 具体的なやりとりは次のとおり。
○小池正勝君 おはようございます。自由民主党の小池正勝です。
……を具体的に教えていただきたいのと、先生のその文章の中で読ませていただくと、この国ナビというやつは発生主義ということを盛んにおっしゃっておられるわけですね。しかし、発生主義というのは、今は現金主義なわけですけれども、現金主義を発生主義に変えた場合に、発生主義というのはこの実際の支出の予算額というのは極めて不明確になりますから、逆に国会の政府に対する予算統制、これは弱くなるんじゃないか。言葉は悪いですけれども、国会軽視につながっていくんじゃないだろうかという気がしてならないし、もしそうであれば決して許すわけにはいかないと思うんですが、この二点、桜内先生にはお願いしたいと思います。
……
○参考人(桜内文城君) では、お答えいたします。
……
 それから二つ目の御質問でございますけれども、発生主義ということについて御質問がありました。
 発生主義あるいは現金主義という言葉はやや、こういった場ですべて細かく説明するというのはなかなか難しゅうございますけれども、実を言いますと、企業会計で言われておりますところの発生主義といいますか勘定体系と、それから公会計で必要とされております発生主義というものは必ずしも一致しておりません。
 それは、富田先生も御指摘のとおり、例えば資産の定義一つ取ってみても企業会計と公会計では異なっております。例えば企業会計における資産の定義といたしましては、もちろん、キャッシュを幾ら生み出すのかという点を非常に重視いたします。もちろんそれが要件になってくるわけですけれども、公会計の場合には、そのキャッシュを生み出すものはもちろんそうですけれども、それ以外にも国民に対してサービスを提供する能力が潜在的にあるというものを資産というふうに定義付けてきております。
 ですので、ここにつきましては、必ずしも発生主義というのを利益を計算するために必要な取引のみを会計処理していくという企業会計でやられているものを指すわけではありませんで、むしろ公会計におきましては、政府のすべての取引、意思決定というものを会計的に処理していくための勘定体系を拡張してまいります。そういうふうにやりますことによって国会での統制というものをむしろ強化していくということが考えられております。ですので、先生がおっしゃいました、発生主義にすると不明確な部分が増えて予算統制が弱まるという御指摘は私はむしろ当たらないというふうに考えております。
 それからもう一つ、公会計という点で重要な点は、先ほどの富田先生の御指摘にもありますけれども、資産の評価、評価といいますか資産査定、デューデリジェンスというものをどれだけきちんとやっていくのかということに懸かっている部分が非常に多いのかなというふうに考えております。
 これは、富田先生御指摘のとおり、売れる資産売れない資産、もちろんございます。で、これはキャッシュを生む資産なのか、あるいはそうじゃないのかという区別にもつながるわけですけれども、こういったものをきちんと性質によって勘定科目を分類していくことによりまして、売れる資産は幾らあります、あるいは売れない資産というものは幾らですというものをもってきちんと資産査定やっていくということが必要でございます。
 これは、むしろこの委員会でも正に話題となっております国の財政運営における無駄をいかに排除していくかという点から申しましても、むしろこういった政府が今現在どういうふうに資産を活用しているのか、それが無駄がないのかということも含めてきちんと再評価していく、これが正にデューデリジェンスだと思いますので、これも公会計の重要な要素だと考えております。

 次のやりとりを見ると、参考人は質問の意味を理解していなかったのではないかという気もする。小池委員は時価問題については何ら言及していないのだが。
○藤末健三君 民主党・新緑風会の藤末健三でございます。
 本日は、富田先生、桜内先生、本当に貴重なお話をありがとうございます。
 時間がないので、桜内先生に御質問申し上げたいと思います。
 私、桜内先生のちょっと御著書を読まさせていただきまして一つ思いましたのは、本日、小池委員からも時価会計主義そして発生主義の議論が出ましたが、今OECDや、あとIMFなどにおきまして公会計の議論がございますですよね。その中で、時価主義そして発生主義の議論がどのように進められているかということを教えていただけませんでしょうか。お願いいたします。
○参考人(桜内文城君) 今御指摘のとおり、OECDですとかIMFにおきまして、まあ基本的にはこちらはSNAと申しますか社会会計の分野でございますけれども、それと、近年公会計の議論も大分進展してきてまいりましたので、その考え方といいますか勘定体系等をなるべく統合していこうという議論が国際的に行われているところであります。
 やはりそこは、先生御指摘のこの時価主義あるいは発生主義というものをどこまで公会計の分野においてもあるいは統計の分野においても導入していくかというのはなかなか難しい議論がございますけれども、一つ言えますのは、既に恐らく固まった結論ではないかなという点は、発生主義という点については国際的な合意が既にほぼ形成されているのではないかというふうに、私、議論に参加して認識しておるところでございます。
 やはり発生主義の体系を採用しておりませんと、きちんとバランスシートを作るですとか、そういった基本的なことがなかなかできないというのがございます。もちろん、発生主義を今度採用した場合に、先生も御指摘のとおり、小池先生も御指摘になったように、じゃ時価というものをどういうふうに織り込んでいくのかという点はこれまた次の問題として発生してまいりまして、じゃ時価をどこまで取り込んだ財務諸表を作成するのかというのは、正に今議論の真っ最中というふうな状況じゃないかというふうに認識しております。
 時価の考え方なんですけれども、理論的に申しますと、企業会計では相当程度時価会計というものも入ってきておるわけですけれども、その元々の背景と申しますのは、今回のライブドア事件を引き合いに出すのも不適切かもしれないんですけれども、やはりマーケットを通じて資本市場と申しますか証券取引というものが行われる上において、やはり時価というものを投資家の目から見て非常にやっぱり重視していかなくてはいけないという考え方がございます。
 逆に、じゃ公共部門のパフォーマンスを評価する上において時価という情報がどこまで参考に本当になり得るのかと。マーケットを通じて我々は政府を見ているわけでは基本的にございませんので、もちろん国債は別ですけれども。そういう点からしますと、必ずしも企業会計で時価主義を採用しているからといって公会計においても時価主義をそのまま採用するというわけではないと。しかしながら、先ほど申し上げたとおり、政府の今の利用方法であれば幾ら幾らの評価価値になりますというデューデリジェンス、もちろん必要ですし、あるいは、もしこれをマーケットテストに付したとして、民間企業がよりいろんな、役所の庁舎ですとかへ民間も入居させるなり、いろんな使い方というのを最高度に民間部門で知恵を絞ってやるとしたら一体幾らの価値になるのかと。こういったマーケットテストというものは、時価主義とはちょっと別の観点で必要になってくるのでは
ないかというふうに考えております。
 以上です。
○藤末健三君 ありがとうございました。

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〔06/05/26追記〕
 どうも、参考人の著書を読んだ人には答えているという理解になるようだ。勝手にメールをから引用してみよう。
 ちなみに、発生主義と議会による予算統制の関連についての議論に関しては、桜内先生は質問にきちんと答えたという認識かと思います。
 例えばインフラの建設を例に考えてみますと、企業会計を前提とすれば、「建設費」は損益としては表現されず、貸借対照表の中に埋もれてしまいます。そして、費用としては後年度に減価償却費がでてくることになります。
 一方、桜内先生の考える方法では、会計期間に生じる全ての資源の出入りが財務書類上に表現されることになります。例えば上記の例についても、当年度の建設費、後年度の建設費が(「費用」という名称ではありませんが)表示されることになります。そして、後年度においては減価償却費も計上されます。
 先生としては、それを踏まえて、予算もそうした形で作成されることを前提とすれば、国会の統制はより強まる、というという答弁をされたものと思います。
「むしろ公会計におきましては、政府のすべての取引、意思決定というものを会計的に処理していくための勘定体系を拡張してまいります。そういうふうにやりますことによって国会での統制というものをむしろ強化していくということが考えられております。」

 要は、本を読んでいないと分からない、ということかもしれない。
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