公会計小委15年6月報告での複式簿記

 財務大臣の諮問機関である財政制度審議会には、その所掌事務のうち「国の予算、決算及び会計の制度に関する重要事項を調査審議すること」を所掌する分科会として財政制度分科会が置かれています。昔は「財政制度審議会」と言っていましたが、省庁統廃合のときの整理合理化で国有財産中央審議会などと一緒にされてしまい、分科会となりました。「審議会は、その定めるところにより、分科会の議決をもって審議会の議決とすることができ る。」(財政制度等審議会令(平成12年政令第275号)第6条第7項)という規定(部会については以前も何かの審議会で見たことがあります。)で、従前と変わらずに仕事ができるようにしてあります。
 この分科会の法制・公会計部会に、「今後の我が国における公会計のあるべき姿について、公会計の担うべき意義、目的を検証するとともに、 公会計として開示すべき情報等に関し総合的な検討を行うことを目的として」、公会計基本小委員会を設置することが、財政制度審議会で14年11月20日に決定されました。

 この小委員会は、15年6月30日に「公会計に関する基本的考え方」と題する報告書を取りまとめ、同日付けで法制・公会計部会へ報告されました。そして、同部会が取りまとめた報告書として財政制度等審議会会長から財務大臣へ提出されました。

 この報告書では、複式簿記について、「6.その他の論点」の「@」として触れられています。そこでは、「複式記帳については、すべての財(事実)の増減変動を記録し、発生主義的財務諸表を効率的に作成するために経常取引と資本取引を仕訳する機能や、会計処理の自動検証機能(借方、貸方の残が一致する機能)が存在する」が、「現金ベースで予算管理が行われる現在の国の会計においては、一元的な国庫金管理の下で、実質的に会計処理の自動検証機能が働いており、直ちに複式記帳を採用する必要性はないと考えられる」として、直ちにの導入は否定しています。しかし、「将来の課題として、必要となる財務情報の具体的な内容を見極めた上で、いかにそれを効率的に作成、開示するかという観点から、新たなシステムを導入する際のコストとメリットとの衡量の中で、必要な記帳システムの検討を行っていくべきである」としており、導入自体の必要性までは否定していません。

 つまり、複式簿記ではなく、複式記帳の話に限定した上で、その導入のメリットとして財務諸表の効率的作成と会計処理の自動検証機能を挙げ、前者のメリットは作成する財務諸表が固まっていない間は発揮されないこと、後者は現金管理による統制を行っている以上必要ないことを指摘しています。

 ある意味、これは、様々な意見を取りまとめる官僚的な賢さが発揮された文章と言えましょう。小委員会の毎回の議事要旨や提出資料をみても、複式簿記の早急な導入を主張する声がある一方、移行コストの検討を主張する声もあったようです。

 同小委員会は引き続き、「公会計の充実に関して」必要な審議を継続していくようで、公会計を勉強する者にとって目が離せない状況です。

(2003/8/7記)

 小委員会の6月13日の配布資料のうち、10日の議論を考慮した資料で、興味深い記述があった。
 10日の会合で事務局が提出した資料に「国庫金管理を一元的に行う現在の国の会計に、複式簿記を導入する実益はあるか。直ちに取り入れる必要性はないと思われるが、将来の課題として、いかに効率的に財務情報を作成、開示するかという観点から、技術的な検討を行っていくべきか。」との記述があり、議事要旨によれば、この下りについて、委員から「「複式簿記を導入する実益はあるか。直ちに取り入れる必要性はないと思われるが・・」と書いてあるが誰が思ったのか。ここの委員の中で、複式簿記を直ちに取り入れる必要性はないと思っておられる委員が何人いるのか、アンケート調査でも取っていただきたいが、特に、複式簿記を導入する実益がないという議論をされたのだろうか。」と噛み付かれている。その後の議論も興味深いが、この指摘を受けた形で、13日の配布資料では、「複式簿記は、発生主義財務諸表を作成する技術としては必要。但し、複式簿記を導入する前提として、どのような財務諸表を作成するかというアウトプットを固める必要がある。その後に、それを速やかに作る手段として、コストとの比較において導入を検討すべき課題と位置づけられる(との趣旨を記述)。」としている。
 しかし、「複式簿記は、発生主義財務諸表を作成する技術としては必要」というのは間違いだろう。「複式簿記は、発生主義財務諸表を効率的に作成する技術としては必要」なら問題無いが。

(2003/8/12記)

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