監査に見る公会計と企業会計の違い


 監査を見てみると、公会計と企業会計の違いが良く分かります。なぜなら、監査というのは、利害関係人の代理として統制が行き渡っているかを検証する仕事であり、そこには、利害関係人がその会計に対して何を求めているかが明確に現れるからです。
 内部監査の利害関係人は統制者ですが、これはここでの議論から除きます。ここでの議論は、企業会計の財務諸表に対する外部監査と公会計の決算に対する外部監査の違いです。

 企業会計の主要な利害関係人は出資者(将来の出資者である投資家も含む。)と債権者(将来の又は一時的な債権者である取引先を含む。)です〔主要でない利害関係人もいるわけで、一例を挙げればメセナ活動の対象者です。〕。
 まず、出資者の当面の関心は配当ですから、配当額算出の根拠となる期間損益の算定が正しいかが最も重要な関心となります。一方、債権者の関心は債権が保全されているかですから、正味財産の額の算定が正しいかが最も重要な関心となります。ただし、それも正確には、将来の正味財産の額になりますから、その意味では、期間損益の額、その趨勢的な変化が最大の関心事になります。ということは、結局、期間損益の額の算出の妥当性に関心が集約されることになります。ただし、監査の方法論としては、正味財産の表示額の妥当性の確認が裏付けが採り易いために(正確には監査手続の明確化=監査責任の限定化が容易なために)、実体的監査は正味財産の表示額が妥当かどうかに焦点が合わされます。
 どちらにせよ、企業会計に対する監査の内容は、損益計算書や貸借対照表のの表示が正しいか、という点に集約されます。

 これに対し、公会計の場合は、主要な利害関係人は、納税者、行政サービス享受者、公的主権者です。
 まず、納税者の関心は、ほかの納税者もきちんと納税しているか(俺だけ馬鹿を見ていないか)ということと、もっと税金は少なくて済んだんじゃないか、ということです。行政サービス享受者の関心は、もっと行政サービスを享受できたんじゃないか、ということです。そして、公的主権者の関心は、公的意思決定による行政サービスの目的は成就しているか、という点です(bk公的主権者の関心は、統制者の関心とも相当重複するところではあります。)。
 このように公会計に対する関心の主体は決算自体の正確性もさることながら、それを背景とした公活動の妥当性にあります。であればこそ、従来、公会計の決算は客観的な表記が可能となる現金主義によっていたわけです。

 現在、公会計についても、企業会計に慣れた人への分かり易さ、という観点から、企業会計的表記への以降が各地で行われています。なかにはABC分析など効果を挙げることが期待できるものもありますが、ほとんどの議論は、複式簿記でなぜコストが把握できるのかも分からずに進められています。このままいけば、明治初期のように何年間か複式簿記を試みてから、また現金主義に戻る、という事態も懸念されます。

(2005/2/6記)
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