会計基準


 企業会計の世界には会計基準があります。これはなぜ必要かというと、一定の基準が無いと、その企業の収益力を比較することができないからです。その企業のある時点での純資産やある期間の損益を他の企業と比較する、すなわち評価するためには、他の企業と同一の基準で経営成績と資産・負債を表示していなければなりません。この同一の基準によって決算を表示することで、その財務内容を比較することができるようにするために、企業会計では会計基準が必要とされ、また、それは、さまざまな事件を経験していくことで改善されてきています。会計基準にはさまざまな原則がありますが、比較可能性を確保しない会計基準はあり得ない、ということははっきりしています。

 一方、公会計の世界でも、現在、公会計基準なるものが議論され、いろいろなものが試作されてきています。それには、二つの流れがあります。
 一つは国家や公権力というものが未成熟な国のために一定の規範を標準として与えることによって、その発展を通時的に又は共時的に評価しようとするものです。これは、特に政府開発援助の対象となっている国における財政会計制度を整備しようとする人達によって必要とされ、推進されています。
 いま一つは、いわゆるアングロサクソン国における財政悪化を端緒として議論されているものです。これは、従来の公会計規範が、公共的な財産を保全しなければならないとの観点が強く、横領的事犯を防止するために羈束性が高くなっていたために、経済的な裁量を働かせにくいものとなっていたのを改めようとする議論から派生しているもので、ある程度のリスクの上昇は(議会や政治任命された大臣等による統制を弱めることによるリスク)は覚悟しても(又は情報公開によってリスクの上昇を抑えることによって)経済的執行の可能性を高めようとするために、企業会計的な感覚を導入しようとする議論です。これは、自らの専門性を公共目的に直接的に活かせるのではないかと考える公認会計士の人達によって推進されています。

 では、従来、公会計には、基準というものが無かったのでしょうか。
 一部で、日本の公会計には基準が無い、という議論がなされていますが、公会計にはその基準となる財政会計法規が存在しており、その意味では拠るべき基準は存在しています。ただし、それは多岐にわたっており、その中の決算表示の基準だけを抜き出して「会計基準」という形で示すことは、していません。
 それで支障は無いのか、というと支障はありません。国の場合、比較するものがありませんから、比較のための基準は必要ありません。また、地方自治体の場合は、実は比較のための資料整備が総務省により多岐にわたって行われており、同程度の自治体が平均でどのような財務構成になっているかなどのデータが整備されていて、その意味で比較のための基準が必要なくなっているのです。

 実は、公会計規範の関係者は企業会計に不案内です。逆に、企業会計の専門家は公会計規範については無知です。平成15年に財政制度等審議会公会計基本小委員会が開催されていますが、実は、これは、そのギャップを埋めるための研修であったと言うこともできます。もちろん、研修であることを理解しなかった関係者もいたようですが。

(2004/4/4記)
© 2004 massim


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