費用回収型の公共事業


 公共事業は公共施設を整備する事業です。この場合、施設というのは、物理的な存在であり、物理的な存在である以上、排除性がありますから、純粋公共財にはなり得ません(教科書で、排除性が薄く、料金徴収が引き合わないとして紹介される街路にしても、すべての市民にGPSとETCを埋め込めば、消費に応じた対価徴収は可能)。したがって、公共事業のなかには、高速道路のように費用の全部を成果物の利用者から回収するタイプの事業があるほか、費用の一部を回収することを予定している事業もあります。

 このような費用回収型の公共事業は、街路のような無料施設提供型の公共事業とは明確に区別して議論する必要があります。

 費用回収型公共事業の一例を、「無駄な公共事業」として槍玉に上がることの多い干拓事業でみてみましょう。この事業で回収されるのは費用の一部です。それは、干拓地に入植する農民の負担金です。農民は、干拓地の営農による収益でこれを負担します。したがって、干拓地の営農の採算性が悪化することが起きると干拓事業自体が立ち行かなくなる、という理屈になります。

 そして、昭和40年代に「干拓地の営農の採算性が悪化すること」が実際に生じました。それは、コメ余りの時代になって、農林省が新しい干拓地でのコメ作りを禁止したことで生じました。当時、政府買い入れが行われていたコメを除けば、負担金を払うゆとりが生じるような営農は困難であったため、干拓事業には大きな歯止めが掛かることになりました(その状況はこちら[会計検査院サイトへのリンク]でみることができます)。

 この干拓事業の例にみるように、費用回収型の公共事業の場合には、個々の事業を実施する上で費用回収が図られるような仕組みになっていれば、効果のない事業は費用回収の見込みがない事業として実施されないことになります。

 逆に言うと、費用回収型の公共事業であっても、費用をプールされてしまうと歯止めが利かないことになります。また、公共事業の実施主体が費用回収を行わないような仕組みでも同様の問題が起こります。後者の問題は、新線建設を行う主体を国鉄とは別に設置したことで実際に生じ[会計検査院サイトへのリンク]ています。

(2003/8/6記)
© 2003 massim


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